社会は経験から学習し行動を適応させる個人の集まりです.個人間の利害対立はよくあることです.利害対立の状況では,個人的利益の追求は集団的利益の追求と矛盾します.利益相反のリスクを考えると,個人的利益の追求は悪い戦略とは言えません.古くから,個人的利益を追求する人々の集団は望ましくない社会状態に至る,という有名な理論的予想がありました.そこで,この予想に反して,なぜ人々は協力するのかが問われてきました.ここで協力とは個人的利益よりも集団的利益を優先することをいいます.多くの既存の説明は「あらかじめ協力的な気質をもつ」と述べてきました.
本研究では,ゲーム理論という枠組みで,学習能力をもつ個人的利益追求型の主体を分析しました.この学習主体は,不確実性の高い限定された情報だけから,強化学習(条件づけ)という心理学でもよく知られた学習を行います.分析の結果,学習主体が両方とも十分に高い学習能力をもつとき,ほとんど 100% 協力できることを示しました.この結果は,個人的利益追求型の人々でも,長期的な経験から学習することで,集団的に望ましい社会状態を高い確率で実現できることを示唆します.